理論と実践

  • 2009.03.24 Tuesday
  • 18:02
 

By森住 史

 大学から大学院まで、合計12年間も学生の身分で所属していました。専攻分野は社会言語学とコミュニケーション学で、通訳の仕事には直接に役に立つものではありません。学生生活を終えて大学教員として仕事をしながら、サイマル・アカデミーに受講生として通っていたのですが、自分に経済やビジネスの基本知識のみならず、一般的な社会人として知識も欠如していることが、大きなハンディキャップであることが、サイマルの他のクラスメートとの比較で明らかでした。言語を理論として何年も扱ってきても、通訳という言語を操る実践には役に立たないなあと感じたものです。

 ところが最近になって、学問もまるきり無駄ではなかったと思えるようになったのです。例えば、修士論文では談話分析(discourse analysis)を扱ったのですが、この分野では、文脈(context)と言語(text)の両方を重要なものとして扱い、発話者がどういう立場の人でどのような意図があって話をしているのか、聴衆は誰なのか、その「場」の意義は何なのか、また、全体の首尾一貫性(coherence)はどのように保たれているのか、論理の転換はどうもたらされるのか、というようなことをcontexttextの両方に関して分析します。ここに挙げた要素は、通訳者として関わる場に応用できますし、訳出時に適切な表現を選び出すための判断基準にもなると言えます。

 もちろん、そう簡単に理論から実践へと移せる訳ではありません。学者が談話分析をするのと通訳者が通訳をするのとでは、与えられる時間がまるきり違います。分析から最適な通訳を考え出すまで、学者なら何ヶ月かけても許されますが、通訳者にとっては秒単位の勝負です。

 それでも、contextに関しては、現場に行く前の情報収集と分析がある程度は可能です。そう思うようになってからは、以前よりは現場で落ち着くことができるようになりました。必要な経済やビジネスの知識を自分で補う努力は怠ってはいけないけれど、同時に、理論的アプローチを軽んじるのも正しくない、と今では思っています。

 

森住 史   サイマル・アカデミー 英語通訳者養成コース講師

国際基督教大学博士課程(後期)修了。専門は社会言語学、コミュニケーション学。

在学中にロンドンとエディンバラに留学。博士課程修了後に、大学英語講師を務めかたわらサイマル・アカデミーに通う。現在は、大学文学部准教授として社会言語学や英語の授業を担当しつつ、フリーランスの通訳者としても活躍。

リテンション

  • 2008.12.09 Tuesday
  • 18:23
 

By 寳閣綾子 

アカデミーに通い始めた当初、最も疲れたのはリテンションの演習だった。リテンションはあくまで記憶増強の訓練であるからメモは取らない。まるで昆虫が触覚をピンと張り巡らすかのように全神経を集中させ耳から飛び込んでくる内容を頭に留めようと必死に努力する。最初は一人一文程度なので大した負荷はかからないが、1人目が1文、2人目が2文目を聞いて1文と2文を再生とだんだん分量が増えてくると、なんとなく講師が恨めしく、暗澹たる気持ちになってくる。こうなるとただひたすら自分に当たらないことだけを願うしかないが、案の定、こういう時に限って必ず当たる。しょうがないので四苦八苦して何とか記憶を絞り出す。このような演習を入門科の時、何度か経験した。苦しみの中で演習を繰り返すうち、まるで頭の中に溝を掘って記憶の回路を作る作業のようだと感じるようになった。掘った溝に水のように情報を流しこみ、脳裏に刻みつける。

効果は思ってもいない形で現れた。当時、私はフリーランスの通訳をしていたが、ある日突然クライアントに「サイマルですか?」と聞かれた。サイマルの仕事ではなかったので、「何故ですか?」と質問すると「サイマルの方はあまりメモを取りませんよね。」と言われた。まるで意識していなかったので、少なからず驚いた。気がつけばメモ取りの量が格段に減っていた。「初めにリテンションありきでメモはあくまでも記憶の補助」と繰り返しクラスで聞いていたその通りだと思い、重ねて驚いた。

こうしてリテンションの訓練のすごさと大切さを痛感した私は自分の経験に基づき授業ではしつこくリテンションの演習を実施している。生徒の皆さんの恨めしそうな気持ちは痛いほどわかりつつ、素知らぬ顔で淡々と実施することにしている。

実を言うと私が生徒の時に再生したのは最長6文程度だったが、私のクラスでは10文から最長14文、少し助け船を出しながらつい最近も再生して頂いた。従って、私が生徒だった時より今の生徒さんの方が遥かに優秀であるということになる。数年後が実に楽しみである。

 

寳閣綾子 サイマル・アカデミー 英語通訳者養成コース講師

高校から大学院までオーストリア、イングランド、ドイツ、スコットランドで過ごす。帰国後、出版社国際部、総合化学メーカー勤務を経て、フリーランスの通翻訳者に。映像、出版、ビジネス翻訳と並行して主に国内外のメディア関連の通訳を担当。その後、エネルギー企業の社内通訳をしながらサイマル・アカデミーで学ぶ。卒業後、現在はサイマル・インターナショナルの専属通訳者として活躍中。

仕事と趣味

  • 2008.09.16 Tuesday
  • 10:49
By 谷山有花
サイマル・アカデミーを卒業後、無我夢中で通訳の仕事をしてきました。通訳の仕事は現場での通訳業務だけではなく、現場に出る前に資料を読んだりその分野に関する下調べをしたりしなくてはいけません。時には徹夜で準備をすることもあります。現場での業務が終了し帰宅しほっと一息…することもできないこともあります。家に帰れば次の日の仕事の準備があるからです。繁忙期には仕事を終えた帰りの電車で次の仕事の準備を始めることもあります。

通訳の作業をしているとき、二つの言語を頭の中で処理しているので脳はフル回転です。そして通訳者の生活そのものも「フル回転」。必死に練習し観客の前で側転・バック転をしたかと思えば、すぐに次のパフォーマンスに向けた準備と助走を始める…まさにアクロバティック。たまに転んでも、恥をかいても、泣いている暇はありません。

大変な一面はあるものの、やはりやりがいがあり色々な人と出会い新しい世界を見ることができるため、私はこの仕事が好きです。冒頭で述べたとおり、無我夢中で毎日を過ごしてきました。そんなある日ある人に「趣味はなんですか?」と聞かれました。趣味と言われて思い浮かぶのは仕事だけであることに気づき愕然としました。通訳は趣味と呼べるだけ楽しい仕事ですし生涯続けたいと思っています。でも「フル回転」の生活でオーバーヒートしないためにも、仕事以外の楽しみも必要だとその時気付かされました。

そこで始めたのが、韓国語の勉強です。まだ始めて半年に満たないのですが、新しい言語を知ることで新しい世界に触れられるということを改めて実感しています。韓国語の勉強を始めてから(少しブームには遅れていますが)韓流ドラマや映画を観るようになりました。自分が知っている単語や表現を聞き取ることができた時の喜びは、言語を学んだことのある人なら皆経験したことがあると思います。

出張で韓国に初めて行った時に韓国に興味を持ったことがきっかけで始めたのですが、最初はテレビ講座で独学だったのが今では週一回のレッスンに通っています。週末の韓国語レッスンが、私にとっての息抜きであり次の週に向けて気持ちを切り替えるための時間です。そして新しい言語を学ぶことで、伝えたいことが伝わらないもどかしさ、言語を通じて心も通じ合った時の喜び、そういった大切なものと、通訳者の役割について再認識している今日この頃です。

10年、20年後には韓国語の通訳もできるようになりたいです。あらら、そうしたら趣味がまた仕事になってしまいます…。皆さんの趣味は何ですか?

プロフィール
谷山有花  サイマル・アカデミー 英語通訳者養成コース講師
アメリカの大学を卒業後、劇団勤務、ホテル勤務などを経て、IT企業の社内通訳、フリーランスの通訳者に。その後はサイマル・インターナショナルの専属通訳者として官公庁、大使館での通訳、IRなど、幅広い分野で通訳を担当。

「英語の上達法」(後編)

  • 2008.08.26 Tuesday
  • 16:46
By 大浦千恵
英会話スクールに通い始めてしばらく、偶然テレビのNHK「英会話」という番組に出会った。インタビュアーがアメリカでいろいろな分野のプロフェッショナルに話を聞く週1回20分間の番組だ(現在は放送されていない)。最初は英語がほとんど耳に入ってこず、さっぱり分からなかった。それでもめげずに毎週視聴続けた。番組を録画したものをテープに録音し、1週間の間に同じものを何度も繰り返し聞くのだ。テキスト=文字は決して見ない。耳だけを頼りに何と言っているのか集中して聞く。ながら聞きではない。100回位聞いたあと、どうしても聞き取れなかった言葉だけ最後にテキストで確認する。このトレーニングを3年は続けただろう。ある日嘘のように英語がすらすら聞き取れるようになり、同時に言葉も口をついてスムーズに出てくるようになった。聞く→話せるについては、様々な場面での英語に触れることによって、自分の頭の中の引き出しが増え、実際そのような場面に出くわした時に自然に文章が出てくるという説がある(決して暗記ではない)。ただ、このトレーニングには前提がある。聞けるようになるには、文章の前後関係・単語と単語のつながり・文章の構成等を把握する力、即ち文法力が備わっていないとダメだ。同様に話す時もまず文法ありきだと私は考える。私は高校時代に文法を完璧にマスターした。それは通訳者になった今でも私の英語のバックボーンである。従って、文法の不得手な人は今からでも是非勉強してほしい。
 以上、帰国子女でなくとも、留学経験がなくとも、やる気と根気さえあれば身近にできる英語力上達法をご紹介した。

サイマル・アカデミー通訳者養成コース 講師
大浦千恵
神戸大学教育学部卒。通訳キャリア12年、ティーチング歴8年。あらゆる分野でコミュニケーションの橋渡しをするプロの通訳者。得意な専門分野は財務会計。

英語の上達法(前編)

  • 2008.08.19 Tuesday
  • 13:35
 By 大浦千恵
通訳者が備えるべき能力はたくさんある。その全てがある水準に達して初めて通訳者として成功するのだが、私がその中でも一番大切だと思うのが「英語力」=英語を話す力と聞く力である。このウェブサイトをご覧になっている方々は皆英語に興味をもっておられるだろうし、また現在アカデミーの通訳科に通っていらっしゃる生徒さんでもまだまだ英語力に不安のある人が多いと見受けられるので、ここで英語力の伸ばし方について、私の経験を書いてみたい。
 まず、小学校から大学まで日本の学校に通った私は帰国子女ではない。
 高校を卒業して大学に入学する1週間程前だったろうか、JRの駅で英国風の紳士から切符の買い方を尋ねられた。私は何とか言っていることは分かったものの、言葉が全く出てこない。結局、券売機に渡されたお金を入れて、切符を手渡してあげただけ。“Thank you.”と言われて、”You are welcome.” と返せたかどうかも覚えていない。もともと英語が大好きで、大学に入ったらすぐ英会話を学びたいと思っていたが、これは大変だ!と即英会話スクールに通い始めた。勿論クラスは一番下のレベルから。そのスクールはクラス以外にもネーティブの先生とフリートークが出来るシステムで、私は足繁くスクールに通った。後編でお話しする勉強法もあって、最終的にはスクールの一番上のレベルまで行き、担当者から「もうここであなたに教えることはありません」と言われ、2年半で卒業した。

サイマル・アカデミー通訳者養成コース 講師
大浦千恵
神戸大学教育学部卒。通訳キャリア12年、ティーチング歴8年。あらゆる分野でコミュニケーションの橋渡しをするプロの通訳者。得意な専門分野は財務会計。

苦労を希望に

  • 2008.03.25 Tuesday
  • 13:37
By 萩原美和
最近、縁あって山登りの会に参加、初の挑戦は2月下旬の雪の舞う日でした。はじめこそ仲間との会話も弾み、楽しいハイキング気分でしたが、その後に待っていたのは予想外の苦行(?)でした。風に雪の悪天候、山道は雪とアイスバーンとぬかるみ、運動不足でなまった足腰という三重苦に、頭の中は大混乱。
「あ〜、来たのが間違いだった…。ついていけな〜い! 誰か助けて!」と心の中で叫ぶも、当然誰も助けてくれません。半ばやけくそ、居直り。こうなったら、作り笑いをしてでもついていかなくては…。

これって通訳訓練を受けていたあの頃にとてもよく似ているではありませんか。
今でこそ笑って話せる思い出ですが、ジタバタと苦しみ、暗澹とした思いで中国語と格闘していた時期がありました。毎回の授業は針の筵にすわる思い、「楽しんで学ぶ」なんて絶対ウソだ、目標見えない、進歩感じず、の毎日でした。それでも何とか続けてこられたのは、先生方の何気ない言葉に込められたエールと、何よりも共に学ぶ仲間がいたからだと思っています。

故松下幸之助氏の言葉に「苦労を希望にかえる」というものがあります。苦労であっても、それをやらなければ一人前になれないのだと言われ続けていると、それは苦痛ではなく未来への希望に変わる、というものです。
山登りにせよ、通訳訓練にせよ、結局は自分の両足で歩くしかない。誰も助けてくれない、のではなく自分以外には誰も助けることができないのです。
いついつまでにこれをやり遂げる、という明確な目標を持ち、努力を続けることができるなら、ふと振り返った時にはすでにかなりの高さまで登っていることがわかるでしょう。
苦労して登った頂上は気持ちいい! 次はもう少し高い山に挑戦できるかも。

サイマルアカデミー大阪校 通訳者養成コース講師
萩原美和

プロフィール
京都外国語大学中国語学科卒。大学卒業後、8年間の商社勤務。子育てをしながら通訳訓練を受け、フリーランスの通訳に。

急がば回れ

  • 2008.03.11 Tuesday
  • 09:40
By 淡輪美弥子
「それは無理でしょう。」
サイマル・アカデミーの5日間通訳入門コースを受け、すっかり通訳者養成コースで本格的に通訳の勉強をする気になっていた私に、いつもやさしい夫がそのときだけはきっぱりと「No」の意思表示をした。

当時は2歳の娘を抱え、家も散らかり放題。家事と子育てに追われる毎日で、通訳訓練はたしかに現実的でなかった。私は後ろ髪を引かれる思いで通訳コース入学を断念。翻訳者養成コースに入り、家で仕事をする方向で勉強を始めた。しかし最初の進級試験でいきなり不合格。目の前が真っ暗になった。担当の先生に「こんな歳なのにこの先どうしたらいいんでしょう」と言うと、おそらく60歳前後だったその先生は笑っておっしゃった。「まだまだ若いじゃない、これからだよ。」

決して私は若くはなかったが、気を取りなおして再履修し、その後は順調に進級し、翻訳コースを無事修了。娘の幼稚園の送り迎えをしながら合間に翻訳の仕事をする日が続いた。夫もよく協力してくれた。でもやはり通訳者になる夢が捨てきれず、娘が小学2年生になるのを機に待望の通訳コースに入学。最初に思いたってから6年が経っていた。そして2年間がむしゃらに勉強して通訳コースを修了し、本格的に通訳者として仕事をいただくようになったのが6年前。

ずいぶん回り道をしたと思う。もっと早くから訓練を始めていれば今頃はもっと出世(!?)していたに違いないと夫に恨みがましく言うことがないわけではない。でも最近は、人生には物事をするのにふさわしい時期があると感じる。あのとき夫の反対を押しきって通訳訓練を始めていたら幼い娘とゆっくり過ごすこともできず、アカデミーを卒業するのにも時間がかかっていたかもしれない、と。

そして、今では中学生になった娘が私には何も言わないのに、人には「通訳訓練中のママの勉強ぶりはすごかった」と話していたと聞くのもちょっぴりうれしい。

サイマル・アカデミー 通訳者養成コース講師
淡輪美弥子

プロフィール
青山学院英米文学科卒。米系航空会社に5年間勤めた後、出産のため退社。その後、サイマル・アカデミー翻訳コースを経て翻訳の仕事をしながら、通訳者養成コースに入学。2002年に卒業し、以来、通訳者として活動中。年齢はともかく、まだまだ駆け出しの通訳者として精進する毎日。

「○○勉強」のすすめ

  • 2007.12.04 Tuesday
  • 11:04
By 田村優子
サイマル・アカデミー通訳者養成コースの受講生だった頃から、電車で勉強するのが好きでした。週2回の授業が終わって帰路につき、自宅に向かうJR線に乗ると立ってつり革につかまったまま、おもむろに携帯型テープレコーダーを取り出し、その日授業で履修した内容のテープを入れます。イヤホンを装着して、その日のパフォーマンスを聞き返したり、テープを区切りごとに止めて逐次の練習をしたり、果てはシャドーイングをやったり。口は動かしますが、もちろん大きな声は出しません。もごもごと、でも自分の頭の中では声が聞こえるようにやります。夢中になってやっていてふと前を見ると、目の前に座っている人のいぶかしげな視線とぶつかったりして、恥ずかしい思いもしました。しかし、家に帰り着く頃までには、その日の復習はばっちり終わり、充実した気持ちで帰れます。
いつもこんな方法で勉強していたわけではありません。ただ、日中は仕事を持ち、また自宅にいる時間は幼い子供たちに時間や手間がかかっていた当時の私にとって自由になる時間は少なく、落ち着いて勉強できる場も限られていました。いわば苦肉の策の「電車勉強」だったわけですが、思わぬ効用がありました。まずは、意外にも集中できたこと、それに「鉄は熱いうちに打て」とばかりに復習を授業のすぐ後にするので、学習内容が体にすっと入っていくような気がしたことです。
ということで、通訳者となった今も、私の電車勉強は続いています。クライアントのオフィスが自宅からやや離れている場合は、「しめた!」とばかりにその日の資料、ついでに翌日の資料も持込み、ノートや筆記用具を広げればそこはたちまち書斎に早変わり。仕事前の仕上げをしたり、他の資料の下調べをしたりと充実した時間を過ごすことができます。もちろん、機密性を要する資料は公共の場で広げたりはしませんが。
あまりきちんとしていないからと後ろめたく思っていた「電車勉強」ですが、最近の勉強方法やタイムマネジメントの本を読むと、これを薦めているものもあるようです。忙しい現代に生きる私たち。時間が限られているからこそ、細切れ時間を上手に利用する。短くても一定の時間、しっかり集中して取り組む。これらの条件を意外にも満たすこの方法。いつも時間に追われている私にとっては、引き続き定番となりそうです。と同時に、こうしたスキマ時間はその気になって探せば、他にも私たちの生活の中にたくさん見つかりそうだとも思っています。

サイマル・アカデミー 通訳者養成コース講師
田村優子

上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業。金融機関勤務を経て国連専門機関駐日事務所に勤務、主に通訳・翻訳業務を担当する。在職中からサイマル・アカデミーに通い、修了後は会議通訳者として活躍。サイマル・アカデミー通訳者養成コース講師。翻訳書に「頭のいい人の思考プロセス」(PHP研究所)。

通訳の仕事

  • 2007.11.06 Tuesday
  • 19:11
By 金陽子
通訳の仕事、というとどんなイメージを持たれるでしょうか。

少し前のソフトバンクのテレビCMで、 外国人を交えての会議風景に
「通訳らしき」人の存在が映りこんでいたことがありました。

ウィスパリング、という一種の同時通訳を、簡易の発信機(マイク)と
受信機(イアフォン)で行っている、という設定のようです。
(通訳が見ると、あのCMは細かいところがちょっと変だったのですが)

また、二コールキッドマンが国連通訳を演じた映画「インタープリター」もありまし
た。

確かに会議室や通訳ブースで仕事をすることは多いわけですが、
そればっかりではなく、結構体力勝負な現場もあります。

工場で、ヘルメットを被って、汗をかきかき大声で通訳。これは、
高炉がある工場で異常に暑く、1ヶ月の長期の仕事が終わったら、
なんと水虫になっており、泣きたくなりました。治ったから良かったものの、
治らなかったら、労災(workman's compensation) を出してもらいたいくらいです。


クリーンルームで、宇宙服みたいな繋ぎに、シャワーキャップとマスク、
という出で立ちで仕事をしたことも何度かあります。初めてのときは、
その出で立ちの可笑しさに、笑いの虫が出てしまいそうになり、 苦労しました。

テーマパークの乗り物のペイント指導者の通訳で、
地上3−4メートルの高さに組まれた足場に上って通訳、
ということもありました。怖くて通訳どころではありませんでした。

私の知り合いの通訳は、超クリーンルームでの仕事で、
クライアントから「明日は完全にノーメイクで来て下さい。」と
言われ、真剣に「休もう。」と思ったそうです。
「だって、行っても同一人物だと気づいて貰えなかったら
悲しいじゃない。」と言っていました。

ということで、通訳は案外いろんな場所で仕事をしています。
そして、私は、そういう工場とか現場での仕事が結構好きだったりします。

駆け出しの通訳にとっては、よく分からない抽象的な概念の
話より、目の前で起こっていることが、補助の情報として入ってくるような
仕事は、知識の増強にもなるし、案外やりやすいものなのです。

仕事を始めたときに、ある先輩に頂いた言葉があります。

「怖がらず、とにかくどんな仕事も総て請けなさい。それが
力になります。」

通訳を始めて6年ほどになりますが、この言葉だけは、いつも
心の中にあります。怖い、難しそう、と思う仕事も、勇気を
出して受けて、精一杯の努力を自分に課す。何の仕事でも、
チャレンジする気持ちこそが大切なのだと思います。


サイマル・アカデミー 通訳者養成コース講師
金陽子

同志社大学英文学科卒。メーカーの海外事業部を経て、
サイマル・アカデミー卒業後フリーランス通訳者に。
仕事現場と受講生双方を理解した指導を実践している。

Hope Chest

  • 2007.09.11 Tuesday
  • 10:07
By 池内尚郎
数年前、ジャーナリストの福沢恵子さんが書いたエッセイで素敵な言葉に出会った――“hope chest”。
 実は古臭い言葉で、若い娘が結婚生活の準備に銀器などのいろいろな小物をしまっておく箱(chest)のことを指す。幸せな結婚こそ女の子の生涯の夢と思われていたアメリカの50年代あたりまでは通用した、しかしいまでは「死語」と言うべき表現だ。そんなものを、なぜわざわざ紹介するのかと、いぶかるのも当然。
 たしかに本来の意味では、もはや死語と言っていい。ただ、”hope chest”のそもそもの目標を「結婚」ではなく、一人一人のめざす「キャリア」に置き換えれば、そこに新たな息吹が吹き込まれないだろうか。サイマル・アカデミーに学びに来ている受講生は、具体的なキャリア転換を考えている人ばかりではないが、その多くが現状からのステップ・アップを模索していると思う。そして、模索には悩みが伴う。たとえば、いまのやり方で通訳者に本当になれるのだろうか、といった自問。
 そんなとき、”hope chest”のことを思い出してほしい。いまはchestに大切なものをため込んでいるんだと。いますぐに箱の中身を取り出すというわけにはいかないが、英語力やその周辺の力をこつこつと蓄えていくことができれば、”hope chest”の中身を披露する舞台は必ずやってくるはずだ。大切なことは、他人の箱の中身を気にせず、一人一人が自分の”hope chest”をもち、その中に大切なものを少しずつ増やしていくことである。
 アメリカで最初の黒人国務長官となったコリン・パウエルに、”Perpetual optimism is a force multiplier.”(常に楽観的であれば力は何倍にもなる)という言葉がある。“hope chest”にいろんなものを入れていく作業そのものが、パウエルの言う”perpetual optimism”を生み出す。chest(収納箱)はchest(胸)に通ずる。だから、“hope chest”は「希望に胸をふくらませる」とも読める。私は、そう勝手に解釈している。
 サイマル・アカデミーに学んでいるすべての受講生の方に、この言葉――“hope chest”を贈ります。

サイマル・アカデミー 通訳者養成コース講師
池内尚郎

プロフィール
上智大学外国語学部で学んだ後、政党職員として主に国際活動等を担当。マレーシア首相国連大学講演会、アジア太平洋議員フォーラム、(APPF)総会、ヘルムート・シュミット元西独首相講演会、ASEAN+3交通大臣会合、で会議通訳者として活躍する。 著書『民際英語で行こう―ザメンホフ先生すみません』 を発売中。
ブログアドレスはこちら→http://minsai.exblog.jp


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